人生万事塞翁が馬。 でも、なんだかこんがらがってしまうことが多い日々。
           
恩田陸『劫尽童女』
2007年07月15日(日) 23:49
恩田陸『劫尽童女(こうじんどうじょ)』を読みました。
恩田作品によく出てくる「秘密組織」ですが、
今回のは、ちょっと血の匂いのする組織です。

劫尽童女劫尽童女
恩田 陸


 ちびちび的プチ評
  遺伝子操作は個性か、進化か。遠くない将来、現実化するのかも。
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アメリカ軍の秘密組織「ZOO」から遁走した伊勢崎博士。
娘の遥は「普通の子ども」ではなく、
博士の研究の集大成として超能力を与えられています。
追い、追われするうちに博士は病死。
残された遥は、ZOOに対抗する、これまた秘密組織にかくまわれる。

物語のはじめで10歳だった遥は、
自分の能力を特に疑いもせずに受け入れています。
人を殺すのもためらわない。
それは、生き延びるための手段だから。

ところが、かくまわれた先の孤児院で出逢った
ボランティアのおばさんや、
シスターの愛情に触れるうち、疑問が沸き起こるのです。
そして、成長する身体と心。進化する能力。
遥はだんだんと自分に不安を感じ始めます。

行くところに必ず起こる殺戮。
血塗られた手。
作られた「怪物」である自分の将来は?

親の勝手でプログラミングされてしまった遥の「個性」は、
やがて遥自身にも手に負えないものになってしまいます。
でも、相談できる相手もいない。
唯一の同士は、
同じく「怪物」のシェパード・アレキサンダーだけ。
誰とも分かち合えない孤独と不安を抱えた遥は、
意識しないうちに、またまた進化する。

序盤では、神経戦から肉弾戦へとテンポよく進むので、
ぐぐっと引き込まれます。
が、どんどんと話が大きくなり、
核施設の爆発となった辺りで、
ちょっと話が現実離れしていきます。
いや、もともとSFではあるのですけれど。

遥は父の遺言「すべて焼き尽くせ」を果たすため、
まずはZOOから逃げ、最後には自分の居場所を探します。
捕まれば実験材料とされるか、マスコミの餌食となるか、
証拠隠滅されるか、いろいろと想像はできます。
が、遥は現に生きている子どもです。
ただ、社会にも、ZOOにさえも、
受け入れる準備ができていなかった。
と、考えると、父の伊勢崎博士の勝手さに、
怒りがこみ上げてしまうのですが。

現実社会でも、「遺伝子組み換え」に
熱心に取り組んでいる企業はあります。
食糧不足に備えられたり、
天候や害虫に左右されずに農作物が収穫できる、
というような利点ばかりが強調されています。
が。
その後のこと。
50年後、100年後の安全性や、
それを口にしたものの遺伝子上の問題は
クリアされてはいません。
遥の物語を読むと・・・やっぱり、ちょっと怖くなりますね。
だって、
遥の孤独を受け止められる大人は、
たぶんいないでしょう。

近未来に起こりうるであろう遺伝子問題と、
親から子へと受け渡される歴史の問題。
古くて新しいテーマです。
ラストで遥が選んだ道が、
明るい未来につながっているのであればいいのですけど。

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